2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

義経上洛記 第5回

三 夕花を堀川の館に迎えてからの義経は、心なしか日常が華やぎだしたように近侍たちには感じられた。大原の野へ夕花をつれて出掛けてみたり、密かに近侍の鷲ノ尾に豪奢な衣を買いにやらせたり、常の彼にはない行動をとりだしたのも確かであった。 確かに華…

義経上洛記 第4回

「京の都は判官どのの噂で持ちきりのようじゃな。鞍馬寺の義朝公の遺児が、見事父の敵を討って京に凱旋してきたと」 義経は大納言の顔をうかがった。若い頃はピンと張っていたであろう太い眉も端が垂れ、白いものが多く混じっている。眼尻も幾重にも皺が重な…

義経上洛記 第3回

二 六条堀川の館に居を定めた九郎義経は京都の守護職に任ぜられ、その日々を市中の取り締まりに追われて送っていた。 ある日の夕刻、見廻りから帰った義経は館内に幽閉されている平大納言時忠を見舞った。義経が枝折り戸を開けると、娘の夕花に庭の花などを…

義経上洛記 第2回

そして彼らは馬上の判官義経を見た。 鎌田正家、僧形の武蔵坊弁慶など股肱の臣に左右を護らせ、美々しい鎧に鍬形打ったる兜をかぶった馬上の武者は一見して、源氏の御大将九郎判官義経と窺がい知れた。が、民衆は馬上の義経の姿を見て一様に当惑の表情を浮か…