義経上洛記 第2回

そして彼らは馬上の判官義経を見た。

 

 鎌田正家、僧形の武蔵坊弁慶など股肱の臣に左右を護らせ、美々しい鎧に鍬形打ったる兜をかぶった馬上の武者は一見して、源氏の御大将九郎判官義経と窺がい知れた。が、民衆は馬上の義経の姿を見て一様に当惑の表情を浮かべていた。民衆は噂に聞く東国武者の荒々しさにも似ず一の谷の断崖を駆け降りた猛者の姿とも異なる、小柄で小さく女のような白い顔を兜のひさしの下からのぞかせている青年武者の姿を発見していた。大兵の鎌田、弁慶らに挟まれた義経の姿はまるで鎧をきた婦女子が馬上にいるような錯覚さえおこさせ、中には「御大将は他にやあらん」と探し出す者さえいた。ゆっくりと騎馬の武者が通り過ぎると、長柄を持った徒歩の雑兵が続いた。

 

 やがて義経一行が朱雀大路の砂塵の彼方に消えてゆくと、民衆は先程の武者がやはり九郎義経であったかと納得し、家路につきながらおもいおもいのことを口走った。

「いやはや、一の谷、屋島の合戦の勇猛果敢な姿を想像しておれば」

「なんと優しい武者である事よ」

「貴人のように涼やかな武者よ。花のような武者じゃ」

都の人々は地方の荒々しく粗野な気風は好まず、雅ではかないものを愛でて興ずる。上洛した御大将は恐ろしげな風聞とは異なり公達のように可憐であり、その日から京の町雀の話題の中心になった。